★15話/渾身の等価交換

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★15話/渾身の等価交換

「おっ待たせぇ♪」 「人数分買ってきたぜ!」 「僕も頼まれた物を揃えてきました」  ノックもせずドアを開けたコヅキに続いて、珈琲を人数抱えたリョーイチとヒビキに頼まれた物を持ってきたジークが顔を出した。  どうやら上手いことキョウをお使いに行かせても、ジークと鉢合わせする運命だったようだ。 「ねぇ、話に進展あった?」 「ないよ」 「鰤しゃぶする時、ヒビキさんも誘うことが決まったぐらいだな」  コヅキが尋ねると、即答する(フレム)に続いて、護衛として残っていたキョウが証言。お陰様でコヅキとの関係も良好であった。 「まいったな」 「何がですか?」 「いや、こっちの話」  元々コヅキは、男付き合いが上手い。  だから諜報としての素質があると見込んで、何かと情報収集をしてもらっているのだが……。欠点があるとすれば、人懐っこくて情に流され易いところか。  楽しげに会話を交わしている様子から、縁を切るよう言ったところで。友達になったからと、厄介事に首を突っ込みそうだ。 「ジーク、お前も座って聞くか?」 「いえ、念のため出入口に立ってます」  同席を求めてきた割には、控えめでクソ真面目に頼まれた物をヒビキに手渡すと、ジークは軍人らしく出入口のドアの前に立った。  ーー私用なんだよね?ーー  ジークの行動に早速アンテナを働かせた(フレム)が、疑いの眼差しをヒビキに向ける。  無理もないことだが、軽い咳払いで誤魔化したヒビキは、向かい側に座る(フレム)とムグルに集う三人に苦言をさす。 「お前らも護衛(しごと)中なんだろ? 依頼人(クライアント)に失礼がないようにな」 「へーい」 「そうでした」  缶珈琲を配布し、友達感覚で接していたが、リョーイチにとって(フレム)は雇い主だし、コヅキにとってムグルは雇い主。そして、キョウにとって初めてヒビキ以外の雇い主が(フレム)となった。 「ありがとな」  後ろに控える前に(フレム)の肩を叩いて、耳打ちで礼を言うキョウ。どうやらリョーイチの提案に乗ってくれた事に気付いたようだ。  すると今度は(フレム)が、その場から離れそうになったキョウの裾を摘まんでからの耳打ち。 「昼飯奢って」  それで貸しは無しだと言いたいようだ。  キョウは、「リョーイチに伝えとく」と再度耳打ちしてから、後方の壁際に控えた相方に耳打ち。リョーイチは、小さく笑って「しゃーねぇな」と呟いた。 「ホントに仲が宜しいことで」 「感覚的には親戚のお兄ちゃんですけどね」 「なるほど」  兄弟と言えるほどの親密な関係でもなければ、友達と言えるほど相手の事を知らない。けれど単なる知り合いと割り切るには難しい、そんな関係なのだろう。ヒビキは、イメージし易いとばかりに納得した。 「ほいじゃ本題に入る前に、フレム君に鑑定してもらおうかな」 「鑑定ですか?」 「コレが本当にシュバルツ本人の私物か、自信がなくてね」  ーー嘘だ。  (フレム)は、鑑定する間でもなくそう思った。  記憶障害を抱えてる上に、シュバルツとは長い間顔を会わせていない(フレム)に比べて。ヒビキの方が頻繁に会って話しているのだから、見間違えるはずがない。  それでも鑑定を望むのは、ヒビキの信じたくない心理からくるものだろう。上着のポケットから取り出し、テーブルの上にだされた銀の懐中時計を前にした(フレム)は、念のため「触っても?」と確認して。ヒビキが小さく頷いて見せてから、銀の懐中時計を手に取った。
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