★15話/渾身の等価交換

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 ーー此の世界の代物(モノ)じゃない。  手に取る前から感じたモノが、肌を通して痛感する。コレは間違いなくシュバルツの私物だと(フレム)は思ったが、手にとって直ぐヒビキに伝える事はしなかった。  時計を耳に当てると、カチコチと秒針が動いている音がするけどーー。蓋を開けてみたら、時計の針は11時28分で止まっていた。 「届いた時からその状態なんだ」  普通なら何かの衝撃で故障した結果だと思うところだが、懐中時計が意味する事を理解している(フレム)は、11月28日。今から2週間程前、所持者であるシュバルツの身に何かあったと推測。それも針が止まってることからして、肉体は身動きが取れない状態でありながら、中身は動いていることから魂は生きている。つまり、仮死状態を表していた。 「空き箱も見てみるかい?」  黙って懐中時計を見つめる(フレム)に、ヒビキはジークに持って来てもらった小さな空き箱を差し出した。  中にはクッション素材が敷き詰められ、空き箱の底が見えない状態だが……。(フレム)は、ヒビキが空き箱まで差し出した理由を察したように。受け取って直ぐクッション素材を鷲掴みにして箱の底を確認すると、(フレム)の世界でも限られた人にしか読めない文字で書かれたメッセージを読んで、悩ましげな表情を見せた。  ーーヒビキを欲しいーー  続いて宛札をみると、届け先はヒビキ。  差出人はシュバルツとなっていたが、受付日は12月1日となっていた。 「シュバルツさんは既婚者だったよね?」 「奥さんと孤児院を営んでるそうだよ」  目の前にいるヒビキではなく、左横に座っている相方のムグルに確認した(フレム)は、その答えを聞いて腕を組むと悩ましげに考え始めた。  ーー何かが可笑しい。  英里だった世界と同じ環境なら、奥さんが代理で宅配を頼んだと考えても不自然ではないのだけれど……。 「ヒビキさん。コレ、自宅に直接届いたもんなんですか?」 「いや。仕事先にいる時は、そっちに届くようにしてもらってるから。偶然鉢合わせた時に受け取った感じだ」 「て言うか、郵送って。地方と同じ感覚じゃいけないんですよね? 今も地方は、郵便局や宅配の人が届けてくれるんですけど」 「そうだね。東京(こっち)は、主に軍の関係者が担ってたりするけど。中には高い料金支払って、ギルド会員に依頼するケースもある」  けれどヒビキの職場から考えて、ギルド会員が持ってくるのは不自然。何か確証が得られればと考えた(フレム)は、ヒビキに頼み事をする。 「届けた証の控えって、何処に頼めば確認できそうですか?」 「それなら軍の輸送科に」 「僕が調べてきましょうか?」 「あ、後でお願いします。品物は間違いなくシュバルツの私物(もの)で、ヒビキさん宛に届いたもんですから。ヒビキさんが肌身離さず持っといた方が良いと思いますけどね。」 「じゃあそうさせてもらおうかな♪」  ジークの申し出を一旦断った(フレム)の提案に、黒い微笑みを浮かべて戻ってきたシュバルツの懐中時計を受け取るヒビキ。  それも後ろに控えていたリョーイチ達が、思わずびくついてしまう程の殺気がこもっていた。
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