7人が本棚に入れています
本棚に追加
「終わったな」
「本気で殴られること間違いないよね?」
ひそっと呟いたリョーイチに、小声でコヅキが思った事を言ったところで、強く頷いて見せるキョウ。あんなに怒りを露にするヒビキは、久しぶりに見た気がする。
「それと、シュバルツさんの身に何かあったようですから。明日にでも、ムグルと一緒に自宅へ伺ってみようと思います」
「正直気が乗らないけどね。小さなお子さん達を巻き込む要因に成りかねないから」
「それで10日間も彷徨ってたのか?」
自宅を知っているのなら、合流出来なかった時点でお邪魔すればいいものを……。シュバルツが守ろうとしている命を理解しているのか。雄の提案に、溜め息混じりに発言したムグルの様子からヒビキが尋ねると、彼らは苦笑いを溢して同じ答えに辿り着く。
『仕事ですから』
「そうか」
ならば人が良すぎるのだろうと思ったヒビキは、彼らに頼みたいことをどう伝えようか考え始めた。恐らくヒビキに言われなくても、彼等はシュバルツを探してくれるだろう。
だけど彼の身に何かあったと確信した今。
不安でざわつく衝動を抑えこむのに、彼らの協力が必要だとヒビキは考える。
「実は先日、ジークとシュバルツの自宅に上がり込んじゃってさ。何の手掛かりもなく、手ぶらで帰ってきたばかりなんだよね」
軽い口調で話して見せるヒビキだが、組んだ両手はテーブルの上で固く強く握りしめられていく。
「お望みは何ですか?」
神にでも祈るようなヒビキを前にした雄は、相手が本題を切り出し易いようストレートに尋ねた。
無論ここまで話を聞いといて、ヒビキの望みに全く気付かない程、雄は鈍感な性格ではないのだがーー。
「シュバルツを助けて欲しいんだ」
相手も仕事を抱えてると知っていながら、 身勝手な望みだと思うところがあったものの。雄に向かって、ヒビキは頭を下げた。
神出鬼没で、どうしようもない時に限って助けてくれた親友を救うには、他人に頼る他もう手段がなかったのだ。
けれど雄は、ばっさりその願いを切り捨てる。
「申し訳ありませんけど、フレムとして引き受けられる依頼ではありませんね」
考えていなかった返答ではなかったものの、いざ本人に言われるとダメージが大きいものだ。どうすればその返答をひっくり返せるのか、止まりそうになった思考を巡らせる。
けれど雄の話には続きがあった。
「そもそもフレムは、偽名なんで。鳳龍 雄として引き受けても宜しいですか?」
「ちょっと、雄君!」
「いいでしょ? 物のついでなんだし、欲しいものがあるんだよね」
それがどういう意味なのか、長い付き合いで知ってるムグルが引き留めようとするが、欲しいものがあるなら仕方がないとばかりに口を挟むのを止めた。
最初のコメントを投稿しよう!