18話/気が抜けない送迎

1/4
前へ
/174ページ
次へ

18話/気が抜けない送迎

 その後、リョーイチ達が約束の時間5分前に待ち合わせた場所へ足を運んでみると、雄とムグルが検問にいた軍人と楽しげに話していた。しかも雄は、餌付けされたリスのようにクッキーを咥えてるあたり調子が良さそうである。 「なに餌付けされてんだよ」 「今から向かう先がどんな場所か知らないから、雄と一緒に話を聞いてただけだよ」  リョーイチが声をかけると、クッキーをほうばる雄の代わりにムグルが弁解をしてきたので。ジト目で雄を見たリョーイチは、右手を出して「ポケット」と伝えて催促。  すると検問所にいた軍人に貰った飴や小袋のスナック菓子、キャラメルなどを出してきた雄は、リョーイチの右手にお菓子のピラミッドを作ってみせた。 「たくさん貰った✨」 「ピクニックに行くんじゃねぇぞ💢」  口の中に入れていた物を飲み込んで、にこやかに自慢する雄に対し、右手に盛られた菓子を握り潰したい気持ちを必死に堪えて突っ込みをするリョーイチ。  どちらが年上なのか、分からなくなるようなやり取りをしているが、ジークは検問を任された軍人の皆様に物申す。 「皆さんも餌付けは控えて下さい。こう見えて成人している方なんですよ」 「それもそうだったな」  小柄と言ってもコヅキやジークと比べて身長がある雄は、人前のこともあって余り気にしてないようだが……。ジークの発言で雄の実年齢が、25歳(嘘)であることを思い出したキョウは苦笑した。  そして準備万端なリョーイチ達と比べて、かなり軽装な雄とムグル。護衛がいるからと、準備を怠ったのだろうか?  コヅキに選んで貰った服装ではないが、雄は赤いハイネックに青いGパン。焦げ茶の上着を羽織り。ムグルは、紺色のVネックに黒いズボンで、黒に近い鼠色の上着を羽織っていた。 「ムグルさん達、その格好で大丈夫なの?」 「護衛がいるのに、いかにもな格好で来るのも失礼だと思ってね。まぁ上着で隠してあるだけだから、心配しないで」 「忍者かよ」  コヅキが心配になって声をかければ、ムグルが返答して、その様子を見たリョーイチが突っ込み。  一見武器を所持してないようカモフラージュしてるだけで、上着の裏や腰にはしっかりと準備を整えていたのだ。心配するだけ損というものである。 「とりあえず準備が整っているようでしたら、地下の駐車場に移動しましょう。イヌカイさんが車を用意して待ってるはずですよ」 「歩きじゃないのは久しぶりだな」  ジークの案内にライフルを背負ったキョウは、普段歩きなのを思い出して嬉しそうに言った。現在ガソリンも貴重となった東京では、車所持者も限られているのである。 「シュバルツさんの自宅は千川なので、車での移動は10分ぐらいですけどね。歩いたら片道40分ぐらいはかかります」 「でも千川って、オレ等の自宅の方が近いよな? 駅までなら歩いて15分だろ?」 「そうだな。シュバルツって人には会ったことないが、俺達の行動範囲内に目的地があるとは思わなかった」  全く土地勘がない雄とムグルには分からない話だが、ジークの話を聞いたリョーイチの話によると、近所に彼らの自宅があるようだ。シュバルツの自宅から千川駅まで、どのくらい離れているのか想像は付かないにしても。キョウの話を聞いて、シュバルツの自宅に迷惑をかけるようなら、彼らの自宅にお邪魔出来ないかと考え始める。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加