18話/気が抜けない送迎

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 それから程無くして、停車した車内から安全を確認した一行は、校庭を保有するキリスト教系列の保育園の前に降り立った。  魔力と魔法に縁のある雄とムグルは、ショバルツが施したと思われる結界を確認して目を細めるがーー。逆に魔力や魔法に縁のないリョーイチやキョウ、コヅキとジークは、周囲と比べて整った環境に感心を抱く。 「いつ来ても綺麗ですね」 「千川に、まさかこんな所があるなんて驚きだけどな」 「今まで気付かなかったのが不思議だな」 「空気が澄んでるとさえ思っちゃう」  因みに、その効果は全て魔法です。  それを言えない雄とムグルはコメントを控えて、アポイントで伺った一階の職員室にあたる大きな両引きの窓を叩くと、赤毛を三つ網に束ねた三十代の女性が開けてくれた。 「すみません。アポイントをとったムグルと申しますが」 「お待ちしていました。ジークさんとはお久しぶりね。ヒビキさんは仕事かしら?」  いつもヒビキ独りで来るか、ジークを引き連れてくるので。複数の来客の中にヒビキの姿がないことを意外に思った彼女は、辺りを見渡してジークに尋ねた。  するとジークは、「はい」と肯定してから申し訳なさそうに言葉を続ける。 「今日は抜けれない仕事が入って、マリナさんに会えないと悔しがっていました」 「まぁ、お世辞が上手いのね」 「嘘じゃありませんよ。それに今日は、此方の二人を護衛するよう。ヒビキさんに仰せ遣って来ました」  そこで今度は、彼女と目が合った雄が「初めまして」と挨拶すると、上着の隠しポケットから名刺を出し、「フレム=ウイングと申します」と自己紹介して相手に渡した。  この間、後ろの方で「名刺があんのかよ」「私もほしい」と小言が聞こえたが無視。  その様子を見ていた彼女も、聞こえてない振りの代わりに愛想よく微笑んでから自己紹介する。 「私の名は、マリナ=ネイガー。主人から話は伺っております。どうぞ、子供達はお昼寝時間で2階に上がっていますので。静かに詮索くださいな」 「お邪魔します」 「あ、土足で結構ですよ。主人の仕事場は、職員室を出られて右側の。突き当たりの部屋になります」 「有難うございます」  部屋に上がる前に靴を脱ごうとした雄を制止したマリナが案内すると、雄は靴裏をコンクリートにこすって。出来るだけ泥を落としてから職員室に上がり、通路に出て左右を確認しながらも、右側の突き当たりにある校長室に真っ直ぐ出向いた。 「罠はありませんよ」  先頭を歩いて来た雄が部屋の前で立ち往生していると、後から他の訪問者と一緒にやってきたマリナさんが助言。雄は、そのような理由で躊躇していた訳ではないのだが……。  職員室は引き戸だったが、校長室はノブ式のドアで。雄が意を決して開けると、そこは壁一面本棚に改装された立派な書斎だった。     
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