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20話/敷かれたレール
一方その頃。先陣をきって地下室へと踏み込んだ雄は、魔法で生命体の有無を確認すると、吹き抜けのホールを見下ろせるコの字の2階の踊り場から周囲を見渡した。
深さとしては、地下3階程だろうか。
地上1階から降りて来る間に、踊り場が2ヵ所。何処もかしこも真っ白な階段のため、勢いよく駆け降りてしまうと壁にぶつかっても可笑しくない造りはわざとだろう。
しかも階段から降りて、まず視界に入った深紅の絨毯に驚いた雄は、血の海かと思って一瞬足を停めたぐらいである。
でも実際は、生活感のないモデルハウスのよううな空間で。深紅の絨毯に導かれるように、吹き抜けのホールまで再び階段を降りて行くと、ホールに用意されたサイドテーブルと6人分のソファーとは別に、インテリアとして飾られいるか。大きな柱時計の前にした雄は、足を止めて文字盤を見上げた。
「……壊れてるのか」
それにしては、手の込んだ魔法が仕込まれているので。雄は首を傾げた後に、ヘッドフォンのマイク電源を入れて話しかける。
「001よりムグルへ。後5分追加」
するとムグルが手短に「了解」と返してから、雄はホール周辺の各部屋を覗きに向かい。最後に2階の各部屋を覗いた後、一際魔力を感じる通路突き当たりの壁に手を当てて押してみた。
ーー隠し扉は無い。
でも壁の向こう側に何かあると察した雄は、探知しようとして止めた。魔法とは縁の無いリョーイチ達が、ムグルを連れて地下へと降りてきたからである。
「すっげぇな。屋敷かよ」
「ごめん、フレム君。引き留められなくて」
「構わないよ。一通り部屋を見て回ったけど、悲惨な跡はなかったし、用がある部屋は限られてるから」
そう言って雄は、先程覗いてきた奥部屋から2つ隣の部屋を開けると、明りを付けてから入室。右側のスペースが寝床で、左側のスペースが職務用といったところか。角に配置された机の周りには、綺麗に整頓されていたが……。魔法が扱える雄は、すでに不自然な箇所を見付けていた。
そんな中、リョーイチとコヅキは更に階段を降りて、ホールがある階の部屋を見て回っていた。仲間割れしたような痕跡はなく。充実した設備に、蓄えられた食料。数ヶ月こもる事になっても、十分やっていける準備が整い過ぎていて逆に不思議に思った。
「気がすんだか?」
雇い主である雄の傍から離れるのは、護衛を任された身としてどうかと思うが……。
ライフルを所持しているキョウは、ホールに続く階段に腰をかけて。2階の一室から出て来ない雄とホールの階を探索して回る仲間の双方の動きを注視しながら問うた。
「ジークはどうした?」
リョーイチの問いに、雄が入っていった部屋を指差してやると、険しい顔で通りすがりにキョウの耳に入る声量で報告する。
「どうも可笑しいぜ。突然の失踪にしては、出来すぎた物件だ」
「キョウちゃんは気にならないの?」
すると階段から腰を上げたキョウは、生活感のない空間に背を向けて、コヅキの質問に答える。
「違和感の塊でしかないからな」
普段から家事全般をこなすキョウは、未使用にしては清潔で。誰かに使ってもらう前提で準備された物件ではないかと疑わずにいられなかった。
とりあえず雄とムグルの行動を部屋の前で監視していたジークと合流すると、机の前で壊れた引き出しと格闘していた雄が、何とか引き出しを壊すことなく中を確認するところだった。
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