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一方角部屋を寝室として、まるっと貸切状態で仮眠に入った雄は、肉体をベッドに預けて幽体離脱を行い。突き当たりとなるはずの壁をすり抜けて、出入口が無い代わりに、わすがな光が片壁の下から漏れてる隠し部屋に辿り着いた。
(まるでピラミッドの中だな)
念入りに探せば隠し扉がありそうなもんだが、今は魔法とは無縁のリョーイチ達がいるため。人目を避けたやり方をする他なく。
雄が足を踏み入れた場所は、ムグルがリョーイチ達を連れて来る前に違和感を覚えていた壁の先である。
そこには、簡素なパイプベッドに横たわるシュバルツの姿があり。最低限の酸素は確保されているようだが、侵入者がいるというのにピクリとも動かなかった。
(ヒビキさんに見つかったら怒りそうだな)
原因は雄と同じように、その肉体を所持している魂が留守にしているから。おまけに長い仮死状態に陥るため、肉体が死なないよう時空魔法を施しているようだが__。
(消費が激しいな)
事前に準備して挑んだ割には、魔法陣の効果が不十分。恐らく向かった先で、予想以上の魔力を使用したのだろう。このままでは肉体が死んでしまうと判断した雄は、跪いて片手を床につけると、魔方陣に魔力を注いだ。
すると瞬間的に青白く輝きを放った魔方陣は、肉体から精神の通り道を遡って、時間稼ぎをしていたシュバルツに力を与える。
「もうそこまで来たのか、雄」
予想より早い支援に、思わず口角を上げるシュバルツだが__。暗闇に潜む大物を倒すには、余りにも微力過ぎた。
けど力を与え過ぎると、覚悟を決めたシュバルツが自殺行為をしかねないと思った雄は、敢えて全力の支援を行わなかったにすぎず。必ず助けてみせるという意気込みを胸に、残された肉体に話しかける。
「一時凌ぎには十分だろ、シュバルツ」
けど相手からの返答はない。
あくまで現状を維持することで、確実な勝利を雄に託したようだ。
「死んだら平手打ちするからな」
助けたくても助けに行けない雄は、腹立たしい気持ちを吐き出してから、踵を返して部屋に戻った。
シュバルツの精神を遡れば、ラスボスとも言える本命に会うことは出来るのだろうが、今居る世界では力が制限されており。乗り込んだところで、相手を確実に仕留める自信がなかったからである。
とりあえずシュバルツの本体が無事であることを確認した雄は、目覚めて直ぐLINEでムグルにその旨を伝え。消えた仲間のことが記載されている手帳に手を伸ばしたが__。
思い出した記憶量が、ついに処理しきれなくなったようで。頭痛から大人しく寝る事にした雄は、LINEでシュバルツの生存が確認出来た事を伝えると、朝まで起きる事はなかった。
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