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「たまには顔見せろよ」
食堂の一角で独り食事を取りながら仕事に励む雄にシュバルツが声をかけると、相手を確認した雄が「無茶言うなよ」と応えた後に祝辞を贈る。
「昇進おめでとう。永住する世界も決めたんだって?」
「相変わらず情報が早いな~」
「好きな人でも出来たの?」
「まぁそれもあるかもな」
照れくさそうに応えるシュバルツからは、嬉しさと幸せオーラを感じるが、彼が選んだ永住の世界は決して安全とは言えず……。周囲からは、物好きな死にたがりやなんて噂が既にたっていた。
けどシュバルツが心から求めていた者を知っていながら、その関係を辞退した雄が直感を働かせてニヤリと問いかける。
「じゃあ親友と呼べそうな存在が、その世界には居たりするの?」
「……フレムは何でもお見通しなんだな」
「そんなことないよ。さすがにシュバルツがどういった人柄を気に入って、相手を親友と呼んでるのかまでは知らないし」
「そうだな。最初は冗談だと思ってたし、腐れ縁てヤツかと思ったわ。世界が変わったていうのに、正義感の強いお人好な奴でさ。へらへらして面白い性格してんのに、ずば抜けて思考力が働く奴でよ。お前に……、フレムに似てるから気になるんだとばかり思ってたんだけどな」
「それが違ったんだ」
小言のような口調で褒めてるシュバルツの顔が綻んでるところを見る限り、相当お気に召した存在が永住先にいるんだろう。
話を聞いてた雄も自然と口角が上がり、ニコニコと相槌を打てば、シュバルツが願望を伝えてくる。
「ま、まぁな。どうしてもフレムに紹介してやりたい、て思うようになってよ。仕事仲間とか、そういう訳じゃないんだけどな」
「そうなんだ。酒ぐらい交わしてるのか?」
「厄介事込みでな」
「でも付き合ってられるってことは、それなりの礼儀は踏まえてる奴なんだろうな」
「そうだな。俺の時計を見ても、古臭いとか馬鹿にしねぇんだよ。アイツ」
「じゃあシュバルツに、もしもの事があったら……。その親友さんに頼って、シュバルツを助けに行くのも有り。ってことだな」
雄は、一旦仕事を中断するようにノートパソコンを閉じてシュバルツに言った。
尤も弱音を吐いてる訳じゃないので、余計な提案かと言った本人も思いはしたが__
「……また助けに来てくれるのか?」
「友達として当然だろ? だけど直ぐには無理だろうから、何かしらのヒントは残しとけよ。例えば、お前の容態を知れる其の時計を預けるとか」
「そうだな。考えておく」
実はシュバルツが大切にしている懐中時計は、生死と時の複合魔法により。シュバルツが死ぬと、どんなに器具が正常でも自動的に止まる仕組みになっている。
「あの雪山に埋もれた時も、部屋に置いた時計に気付いて助けに来てくれたんだっけな」
「あん時は、マジで誰に聞いても<知らない><今んとこ見てない>とか言われて。どうしてやろうかと思ったけどな」
「しかも死神文字が読めるなんて、今の時代そぉいねぇぞ?」
「相手が悪かったですね」
シュバルツの言う<今の時代>は、世界共通文字と呼ばれる<日本語>が基本とされているが……。<死神文字>と呼ばれる死生の民特有の文字は、殺すことで魂の救済を行う死神特有の古い文字で。死神を生業とする者が減ってきた現代では、相当珍しい文字だ。
「ほんじゃ、マジでいざって時にはよろしく頼むわ」
「出来る事なら平穏に暮らしてほしいもんだけどね。何かと危ない世界なんだって?」
「此処とあんま変わんねぇよ。ただ魔法が使い難いのがネックなだけでな」
「使いにくい?」
「例えて言うなら、電波が立つか立たないかの際どい位置に世界があるんだわ。だから魔法より魔術を使った方が便利ではあるかな」
「はあ? そんなん死ぬわ。て言うか、え? まさか魔術乱用してんの?」
「いや。普段はナイフとか、ちょっとした時空魔法しか使ってねぇよ」
「ホントか? 銃の腕も磨いとけよ」
これまた余計なアドバイスかもしれないが、シュバルツの言う<魔法が使い難い>というのは<魔法を使用出来ても身体の負担が通常の倍は軽くある>ということだ。
すると小言は聞きたくないとばかりに立ち上がったシュバルツは、席から離れる前に言い返す。
「フレム先輩もな」
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