18話/気が抜けない送迎

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「さすがに、バスでの送迎と言う訳にはならないようだね」 「すみません。優雅にドライブ出来る東京(ばしょ)ではありませんので」 「まぁシティから離れて数分後に、パンパンと銃声が響くぐらいだもんね」  外の様子は、車の外壁(フォルム)で全く見えないにしても……。にこやかに喋るムグルの隣にいるジークは、苦笑しっぱなしだった。 「ったく、食品運んでる軍の荷台と勘違いしてんだろ? バっカじゃねぇのか?」 「化物(ポーン)より生きた人間を相手にする方が面倒臭(めんどくさ)いのにねー」  場慣れしているリョーイチとコヅキは、呆れた様子でうんざりとするようだが……。  不安そうに「弾が突き破ってこないよね?」と言う雄の反応に、ライフルを持ったキョウが動いた。 「足場が不安定なのにいけるか?」  異変を感じたイヌカイが、荷台と助手席を繋げる小さな小窓を開けて問うた。  するとキョウは、荷台の後方にある小さな小窓の方を開けると、弾を込めたライフルの銃口を(のぞ)かせ。大きな揺れを足の踏ん張りで耐えてから体勢を整えて直ぐ、狙いを定めて一発撃った。  すると外から聞こえていた銃撃は止み、何食わぬ顔で小窓を閉めたキョウは、元の位置にライフルを抱えて座ってしまう。 「……殺したの?」  雄は、隣に座り直したキョウに恐る恐る尋ねてみた。すると小さく笑ったキョウは、「いや」と否定してから、東京の恐ろしさを教えてくれる。 「殺しはしてないが、血の臭いで化物(ポーン)が寄ってくるはずだ。その間に俺達は、目的地を目指して車を走らせればいい」 「シュールだね。まぁ現実的に出来ることだから、今や非現実的(シュール)とは言わないんだろうけど」  ムグルは淡々と述べるキョウにそう言うと、閉ざされた荷台の天井を仰いで。来る前に雄が語った東京という街並みを思い浮かべながら、「足を運ぶなら、この東京(せかい)が変わる前に来たかったよ」と感想を述べる。それぐらい今の東京は、環境を含めて人との関わり合い方も変わり果てていた。 「悪い人ばっかりが住んでる東京(とこ)じゃあ、ないんだけどね~。おっと」  ひょっこり道路へ出てきた化物(ポーン)を運転していたタカギが、牽かないよう器用に回避した後。話してたイヌカイが、サイドミラーで化物(ポーン)が車を狙ってこないか確認。気が抜けない地上の送迎は、車で片道10分でも油断ならない任務(しごと)だ。 「イヌカイさん」 「ん? どうした? ジーク」 「化物(ポーン)の出現率はどうですか?」 「心配しなくても、今日は比較的に少ない方だ。五月蝿い奴等もキョウが追っ払ってくれたし、最短距離で行けそうだな」 「それならいいんですけど……。最近化物(ポーン)が群れて出現するようになったと報告が上がってくるので、気をつけて下さい」 「分かってる」 「普通は単体ってこと?」  ジークとイヌカイのやり取りを聞いて、雄が誰となく疑問すると、コヅキが人差し指を立てて教えてくれる。 「普段は人の血や仲間の臭いを感知してから、うわっと群がって出てくるの」 「そう言えば、俺達を襲った化物(ポーン)は、最初から複数体沸いて出てきたよな?」 「あぁ。近場でやりあってた痕跡(こんせき)もねぇのに。まるでされた感じだったぜ」  そうでなければリョーイチは、キョウと二人でどうにでもなったはずだと考えた。  最初から回避する道を断たれ、キョウがサポートし易いよう移動し、引き付けるのがやっとで。サポートしてくれるキョウの身の安全まで気が回らなかったのだ。 「それ、ヒビキさんに報告してます?」 「いんや」 「ついさっき思い出した事だからな」  嫌な予感がしてジークが尋ねると、さも当然かのようにリョーイチとキョウが答えて、溜め息を吐くジーク。長い付き合いから、そうなんじゃないかと思っていたものの。謎の多い怪物(ポーン)なのだから、もう少し関心をもってほしいものだ。  そんな様子を見ていた雄とムグルは、もしかして四人の中で一番苦労しているのは、軍人でもあるジークかもしれないと思うのであった。
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