20話/敷かれたレール

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「随分手間取ったようだな」 「鍵付きでもないのに、どうしたもんかと奮闘してたとこだよ」  話しかけてきたリョーイチに、ムグルが軽く応じるが……。施錠魔法が二重掛けされていたことから、いかにジークに気付かれないよう解除するかが一番の問題であった。 「何か手掛かりがあるといいんだけどね」  引き出しの中身を確認していた雄は、1冊の黒いスケジュール帳を取り出して、中身を確認するや否や。ひらりと抜け落ちたメモをリョーイチが拾った。 「……パソコンを起動。パスワードは……。読めねぇ文字で書いてあるな」 「見せて下さい!」  拾ったメモを音読するリョーイチだが、肝心な部分が読めなかったところでジークにバトンタッチした。 「筆記体、にしては読みにくいですね。ら、らも……」 「分かった!」  ーーと、此処でジークがもっていたメモを覗き見した雄が、卓上にあったノートパソコンの電源を入れて、パスワード画面を待つ。 「一目見ただけで分かったんですか?」 「パスワードは英数文字だから、入力は多分英語だろうけどね」 「死神?」 「職場では、神出鬼没の死神。なんて呼ばれてるんだ」 正しくは、時空魔法を使うことから「時の死神」と呼ばれているシュバルツ。雄がenterキーを押すとホーム画面へと移り、そこにはフレムと言う名で保存された再生ボタンのショートカットアイコンだけが表示されていた。 「意図的な悪巧(モノ)を感じるね」 「うん」  ーー明らかに誘導されている。  それは、その場に居た全員が思った。  でも後には退けない現状から、雄がマウスでダブルクリックすると、愛想良く[やぁ]と挨拶した途端、カメラが倒れて出オチとなったシュバルツの姿が映し出された。 「なんだ? このオッサン」 「シュバルツさんですよ」  この場にいる全員で見れるように、フル画面設定した雄がパソコンから離れると、ちょうどカメラのスタンバイを終えたシュバルツが咳払い。そんな間の抜けな登場に疑いの目を向けるリョーイチだが、シュバルツを知るジークは真剣な眼差しを映像に向ける。 [まぁなんだ。自己紹介が必要な人物が、今目の前にいないことを祈るぜ。この映像は、助っ人として呼んだ。フレム=ウイング宛のビデオレターだ。中身を知りたきゃ、黒髪に赤鉢巻の。外見年齢高校生並の若さを保つ、成人男性を探すことだな]  すると、一瞬視線が雄に集中するものの。シュバルツが間を置いて、[準備はいいか?]と声をかけてから話を進める。 [つぅか最初からフレム本人だったら悪いな。記憶喪失だっていうのに、こんな所に呼び出しちまってよ。しかも一方的な映像で申し訳ないが、経緯を説明させてもらうわ]  しかし、この発言以降ーー。  シュバルツが言っている事を理解出来たのは、フレム=ウイングとして活動している雄だけだった。彼は相手の会話に合わせて、黒いスケジュール帳の中身を確認し始める。 「ジーク、分かるか?」  キョウが傍にいたジークに尋ねるが、黙って首を横に振る様子からお手上げのようだ。  彼は日本語の他に数ヵ国語の言語を修得しているはずなのたがーー。 「発音は、ヨーロッパ諸国寄りなんだけど……。なんか、違うんですよね」 「暗号化されてるの?」 「その線が濃厚かもしれません」  聞き覚えのある単語が出てきても、文にならない時点で可笑しいと感じたジークは、コヅキの言う暗号の可能性を視野に入れて考え始める。 「ほんじゃムグルは理解してんのかよ」  わざとムグル本人に聞こえる声量でリョーイチが疑問を口にすると、ムグルはお手上げのリアクションして見せた後に、人差し指を口元に寄せて静かにするよう求めた。  どうやらシュバルツと雄しか分からないよう、工夫されているようである。
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