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「随分手間取ったようだな」
「鍵付きでもないのに、どうしたもんかと奮闘してたとこだよ」
話しかけてきたリョーイチに、ムグルが軽く応じるが……。施錠魔法が二重掛けされていたことから、いかにジークに気付かれないよう解除するかが一番の問題であった。
「何か手掛かりがあるといいんだけどね」
引き出しの中身を確認していた雄は、1冊の黒いスケジュール帳を取り出して、中身を確認するや否や。ひらりと抜け落ちたメモをリョーイチが拾った。
「……パソコンを起動。パスワードは……。読めねぇ文字で書いてあるな」
「見せて下さい!」
拾ったメモを音読するリョーイチだが、肝心な部分が読めなかったところでジークにバトンタッチした。
「筆記体、にしては読みにくいですね。ら、らも……」
「分かった!」
ーーと、此処でジークがもっていたメモを覗き見した雄が、卓上にあったノートパソコンの電源を入れて、パスワード画面を待つ。
「一目見ただけで分かったんですか?」
「パスワードは英数文字だから、入力は多分英語だろうけどね」
「死神?」
「職場では、神出鬼没の死神。なんて呼ばれてるんだ」
正しくは、時空魔法を使うことから「時の死神」と呼ばれているシュバルツ。雄がenterキーを押すとホーム画面へと移り、そこにはフレムと言う名で保存された再生ボタンのショートカットアイコンだけが表示されていた。
「意図的な悪巧を感じるね」
「うん」
ーー明らかに誘導されている。
それは、その場に居た全員が思った。
でも後には退けない現状から、雄がマウスでダブルクリックすると、愛想良く[やぁ]と挨拶した途端、カメラが倒れて出オチとなったシュバルツの姿が映し出された。
「なんだ? このオッサン」
「シュバルツさんですよ」
この場にいる全員で見れるように、フル画面設定した雄がパソコンから離れると、ちょうどカメラのスタンバイを終えたシュバルツが咳払い。そんな間の抜けな登場に疑いの目を向けるリョーイチだが、シュバルツを知るジークは真剣な眼差しを映像に向ける。
[まぁなんだ。自己紹介が必要な人物が、今目の前にいないことを祈るぜ。この映像は、助っ人として呼んだ。フレム=ウイング宛のビデオレターだ。中身を知りたきゃ、黒髪に赤鉢巻の。外見年齢高校生並の若さを保つ、成人男性を探すことだな]
すると、一瞬視線が雄に集中するものの。シュバルツが間を置いて、[準備はいいか?]と声をかけてから話を進める。
[つぅか最初からフレム本人だったら悪いな。記憶喪失だっていうのに、こんな所に呼び出しちまってよ。しかも一方的な映像で申し訳ないが、経緯を説明させてもらうわ]
しかし、この発言以降ーー。
シュバルツが言っている事を理解出来たのは、フレム=ウイングとして活動している雄だけだった。彼は相手の会話に合わせて、黒いスケジュール帳の中身を確認し始める。
「ジーク、分かるか?」
キョウが傍にいたジークに尋ねるが、黙って首を横に振る様子からお手上げのようだ。
彼は日本語の他に数ヵ国語の言語を修得しているはずなのたがーー。
「発音は、ヨーロッパ諸国寄りなんだけど……。なんか、違うんですよね」
「暗号化されてるの?」
「その線が濃厚かもしれません」
聞き覚えのある単語が出てきても、文にならない時点で可笑しいと感じたジークは、コヅキの言う暗号の可能性を視野に入れて考え始める。
「ほんじゃムグルは理解してんのかよ」
わざとムグル本人に聞こえる声量でリョーイチが疑問を口にすると、ムグルはお手上げのリアクションして見せた後に、人差し指を口元に寄せて静かにするよう求めた。
どうやらシュバルツと雄しか分からないよう、工夫されているようである。
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