りんごが必要

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 幼馴染の高山可憐は運命の出会いについて語る際に必ずりんごを持ち出す。 「私が市場でりんごを買ったとするでしょ。他にも野菜とかフランスパンとか色々買うのね。それで、荷物をいっぱい持って道を歩いていたら、ふとした拍子にりんごを落としちゃうの。あ、と焦っちゃうけど、両手はふさがっててどうしようもないの。で、そんな時に現れるの。運命の人が。彼はりんごを拾って、袖で拭いて、がりっと一口食べて『ごめん。美味しそうだからつい食べちゃった』って謝ってくれた後に『りんご代として、その荷物を持ってあげるよ』って言ってくれて、それから私達は暫く一緒に歩いて、どうでもいい話で笑い合って、で、家に帰り着くわけだけど、いい雰囲気だったから中々別れを切り出せなくて『折角だからディナーでもどう?』って私が誘って」 「ちょ、ちょっと待って。待って。いきなり知らない男の人を家にいれるのはまずくない?」 「だって運命の人なのよ?」 「出会ったばっかりだからまだわからないじゃないか」 「りんごを拾ってくれた時点で、彼は運命の人なの」  彼女は『りんご』と『運命』という単語を強調した。 「彼がりんごを拾う事で、私達の運命の歯車は動き始めるの」  高山可憐は運命について語る際に必ずりんごを持ち出す。  どこでも必ずりんごが出てくる。  浜辺でも、レストランでも、電車の中でも、図書館でも。  彼女の語る運命には必ずりんごが付いて回る。  確率は100%。  例外はない。  それについてこれまでの僕は「ふーん。そっか。りんごねぇ。りんごかぁ。りんごって美味しいよねぇ。一口がりっと食べちゃうのもわかるなぁ」となんともなしに返事をして、彼女はよっぽどりんごが好きなんだろうなぁと考えていたわけだが、 「りんごが必要なの。絶対に」  こうまで僕に対してりんごが必要なのだと力説する彼女とずっと一緒にいると「え? もしかしてこれ僕の告白を待ってる? 自分の理想とする告白を僕に演出させようとしている? りんごを通して告白してくれたらオーケーしますよというサイン?」と思うようになってしまうのもまあ自然な流れではないだろうか。  もちろん、僕の盛大な勘違いである可能性は高い。  夢見がちな乙女の空想……。  それをただ仲の良い幼馴染に語っているだけ……。  そう思うのが普通だ。  けれど、果たして普通の人がここまで毎回毎回条件付きの運命の出会いについて語るものだろうか?  それに正直なところ、幼い頃からずっと一緒にいたことにより、僕としても彼女にするなら高山可憐一択だと思っている。  彼女も僕の気持ちに気付いているのだとしたら……。  僕が告白し易いように、誘導している可能性も……。  あるような。ないような……。  わからない。確証はないけれども……。  気になる。    だから——彼女の真意を確かめる為に、今日はなんのきなしに返事をせず、一歩踏み込むと決めていた。
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