3.地主神社の恋占いの石

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3.地主神社の恋占いの石

 無事に中学校の編入試験に合格し、晴れて日本の中学生になったわたしは、京都御所の隣に位置する中高一貫教育を掲げている私立学校に通い始めた。  早いもので半月が経ち、もう10月の中旬。今は中間試験の真っ最中なので、学内にはぴりぴりした雰囲気が漂っている。  終礼後、わたしはクラスメイトの三条実穂(さんじょうみほ)に、 「実穂、バス停まで一緒に帰りましょう」 と声を掛けた。  実穂は、編入後、すぐに仲良くなった友達だ。彼女はクラス内では目立たない控えめなタイプだったが、漫画が好きで、絵がとても上手だった。彼女が描いている絵を何気なく目に留めて、わたしの従兄が漫画家だという話をすると、実穂は「ええっ、すごい!その人に会いたい!絵を教えてもらいたい!」と熱心に食いついて来た。話してみると気が合ったので、それ以来、一緒にいることが多くなった。  実穂はわたしの顔を見ると、 「うん、いいよ」 と笑顔で頷いた。カバンを手に取り、わたしの隣に立つ。そのカバンの持ち手に、初めて見るお守りがぶら下がっていることに気が付いて、わたしは、 「それ、なぁに?」 と問いかけた。 「これ?地主(じしゅ)神社の縁結びのお守りだよ。こないだお姉ちゃんと行って来たんだ」  実穂は恥ずかしそうに頬を染めると、他のクラスメイトに聞こえない様に、小声でそう言った。 「もしかして、横田君と縁が結べるように願をかけているの?」  わたしも実穂だけに聞こえるよう小声で返すと、 「うん、そう」 実穂はますます顔を赤くして頷いた。  横田君というのは、わたしたちの隣のクラス3年B組の男子だ。バスケ部のエースで見た目も格好良く、女子生徒の人気者で、実穂が彼に片思いをしていることを、私は知っていた。 「横田君って、実穂の好きなバスケ漫画に出てくるキャラクターに似ているんだっけ?」 「そう。アカギ君。そっくりなの!」  恋する乙女の顔をして、実穂が笑う。 「地主神社の『恋占いの石』に、一度で辿り着くことが出来たの!だからきっと、もうすぐ恋が叶うのかなって、思ってるんだ」 「『恋占いの石』?」  辿り着くというのはどういうことなのだろう。わたしが首を傾げていると、 「地主神社っていうのは、清水寺の隣にある恋愛のパワースポットの神社のことでね、境内には『恋占いの石』っていうのがあるんだよ。本殿の前にふたつの石があって、片方の石から片方の石まで、目をつむって一度で辿り着くことが出来たら、恋が叶うんだって。逆に、何回もかかったら、なかなか叶わないんだって」 「ふぅん。おもしろいわね」 (やってみたい!)  実穂には、わたしにも好きな人がいるという話をしていないので、表向きは冷静に返事をしたのだが、内心興味津々なことを察知されたのか、 「杏奈ちゃんも好きな人がいるの?」 と突っ込まれてしまった。 「えっと……別にいないわ」 (ひとまわりも年上の従兄が好きだなんて、同級生には、さすがに言えない……)  そんなことをカミングアウトしたら引かれるんじゃないかと思い、視線をさ迷わせて誤魔化したら、実穂はわたしの顔をじっと見つめた後、 「ふーん、そうなんだ」 と思わせぶりに笑った。 「良かったら、杏奈ちゃんも行ってみて。地主神社」  実穂はにっこりと笑うと、わたしの肩を軽く叩いた。 *
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