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先ほど通り過ぎた鳥居の前に到着すると、あたりは食べ物の屋台が軒を連ねていた。あちこちからいい匂いが漂ってくる。お祭りのような市を見て、わたしは、
「わあ!すごい!」
と歓声を上げた。
「楽しそう!」
「とりあえず、本殿に参拝を済ませてから、後でゆっくり見て回ろか」
颯手に促されて、わたしたちは参道に入った。参道の両側には食べ物の屋台の他に、着物、刃物、七味、ちりめんじゃこ、射的の店なども並んでいる。それを興味深く眺めながら、混みあう参道を抜け、立派な楼門をくぐり境内に入ると、さすがにこの中には露店は出ておらず、一気に落ちついた雰囲気になった。
「お清めしよか」
颯手の後に続いて手水舎に向かうと、見よう見まねで手と口を清める。
手水舎の側には、立派な赤目の牛の像があり、
(何で、牛?)
と首を傾げていると、
「天神さんの御使いは牛なんやで。
ここの御祭神の菅原道真公は、平安時代に朝廷で活躍しはった公卿やねんけど、政敵に謀られはって、大宰府――今でいう九州の福岡県やね――に左遷されてしまわはってん。ほんで、そのまま大宰府で亡くなってしまわはった。
なんで牛が関係あるんかというと、道真公の生まれはった年が丑年で、亡くならはった日が丑の月丑の日やった、とか、亡くならはった時『牛に車を引かせて、自然と止まったところを墓地にして欲しい』て言わはったら、その言葉通り、牛はある場所で止まった、なんていう伝説があるからやね。牛に縁の深いお方やったんやろね」
颯手は詳しく説明してくれる。
「なんで人が神様になったの?」
歩き出しながら、普通の人が神様になれるものなのだろうかと思って尋ねてみると、
「実は道真公が亡くならはった後、朝廷ではおかしなことが続いたんや。道真公を陥れはった藤原時平ていうお人が若死にしはったり、雷が帝のお住まいの屋根に落ちて、人が死んでしまったり。ほんで、『これは道真公の祟りや!』って話になって、御神託で、この地にお祀りされはった。そうしたら、悪い出来事はおさまってん」
颯手は更に説明を続けた。
「ふぅん。道真公はきっと悔しかったのね」
「そうかもしれへんね。ああ、『三光門』が見えて来たわ」
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