2.北野天満宮のお牛さん

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 かなり目立つ老人なのに、誰も気に留めている様子がなかったので、不思議に思って見つめていると、わたしの視線に気が付いたのか、老人は、 「おや?おぬし、儂が見えるのかの?」 と言って、こちらを振り向いた。 「ふむふむ、さてはおぬし、先程牛舎で、一願じゃというのにふたつ願い事をした欲張りな女子(おなご)じゃな」  老人はわたしの側に近づいて来ると、そう言って、わたしの顔を見上げた。皴が動き、目尻が下がる。どうやら笑ったようだ。 「えっ!?」  一瞬、意味が分からず目を瞬くと、 「おぬし、絵馬と牛に、違う願い事をしたじゃろ?」 と聞かれる。どうしてこの老人がそれを知っているのだろうと驚き、 「あなたは誰なんですか?どうして、わたしがふたつお願い事をしたって知っているの?」 (颯手と愛莉にも言っていないのに) と問いかけると、 「それは、儂が『一願成就のお牛さん』だからじゃよ」 老人は、「ふぉっふぉっふぉっ」と笑い声をあげた。 (お牛さん……あっ、そうか!この人も、大豊神社の狛鳶と同じ、神使なんだわ)  わたしはそこでようやくピンと来た。 (だから、他の人には姿が見えないんだわ)  納得していると、 「欲張りな女子よ。儂の探し物を一緒に探してくれんかの?」 お牛さんはわたしにそう頼んで来た。 「探し物って、なぁに?」  神使のお願い事を断るのも気が引けて、問い返すと、 「箱じゃ」 お牛さんは探し物の説明を始めた。
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