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イギリスから約12時間のフライト後、わたし――星乃杏奈(ほしのあんな)は、両親と共に大阪の関西国際空港に到着した。
愛犬のキャリーバッグを持ちながら、あちこちから聞こえてくる日本語に、懐かしさを感じて、きょろきょろしているわたしに、
「杏奈は日本は7年ぶりになるのかな?」
大きなスーツケースを引いているパパが、振り返って声を掛けた。
「イギリスに引っ越したのは杏奈が7歳の時だったから、日本のことはあんまり覚えていないんじゃない?」
小ぶりのスーツケースを引いてわたしの隣を歩くママの言葉に、少し考え込む。
わたしたち家族は、パパの仕事の関係でイギリスに引っ越す以前は、京都の銀閣寺というお寺の近くに住んでいた。
大きな古い日本家屋で、誰もいないのに勝手に雨戸が開く不思議な家だった。
祖父はわたしが生まれる前に亡くなっていたが、同居していた母方の祖母は、その様子を平気な顔で眺めながら、よく縁側でお茶を飲んでいたっけ。
近所には春になると桜が咲き乱れる遊歩道があって、優しい従兄に手を引かれて歩いた。
「ううん。覚えてるわ。おばあちゃんと住んでいた家とか」
ママにそう答えると、ママは目を細めて、
「そう」
と嬉しそうに微笑んだ。
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