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わたしとお牛さんは連れ立つと、露店を一店一店、見て回ることにした。お牛さんの姿は他の人には見えていないので、他の人から見ると、骨董品に興味津々の女の子がひとりでお店を回っているように見えるだろう。
それらしい箱を見つけては「これ?」とお牛さんに聞いてみるのだが、
「ううむ、違うようじゃのぅ」
お牛さんは首を横に振り続けた。
あちこちの露店を見ながら『一の鳥居』まで戻って来ると、わたしは、
「はぁ~、見つからないなぁ」
と溜息をついた。なにせ売り物が多すぎる。くたびれ果てていると、
「あっ!杏奈!」
名前を呼ばれ、振り向くと、颯手が人波をかき分けて駆け寄って来るところだった。
「良かった!いつの間にか、いいひんようになってるし、心配したんやで」
どうやら迷子になったわたしのことを探してくれていたらしい。心底ほっとしている様子の颯手を見て、
「ごめんなさい……」
わたしは、しょぼんと肩を落として謝った。
(心配させてしまったんだわ……)
「愛莉さんも探してくれてるんやで。見つかったって、連絡しておかな」
颯手がスマホを取り出して愛莉に電話を掛け始めたので、
(今日はもう一緒に探せないって言わなきゃ)
わたしはお牛さんを振り向いたのだが、
(あれ?)
一緒にいたはずの老人の姿は、いつの間にか消えていた。
「…………」
(どこに行ってしまったのかしら。牛舎に帰ったのかな)
お牛さんのことを考えていると、
「杏奈。愛莉さんと連絡ついたで。駐車場で落ち合う約束やから、もう帰ろか」
颯手がわたしの頭を、ぽんぽん、と軽く叩いた。
「うん」
(……結局、見つけられなくて、悪いことをしてしまったわ)
お牛さんに申し訳ない気持ちで、北野天満宮を後にする。
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