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わたしは箱を持って回して見た。箱の側面にも桜の花びらが描かれており、どこから見ても綺麗な細工だ。裏側にオルゴールのつまみがあったので回して、蓋を開けてみたが、愛莉の言うように壊れているのか、音が鳴らない。
(箱っていうか……オルゴールだけど、お牛さんが探していたのって、この箱なのかな?)
もしそうなら、見つけたことを教えてあげたい。
(でも、これは愛莉が買ったものだし……)
どうしようと思っていると、
「お待たせ」
駐車料金を払った颯手が車に戻って来て、扉を開けた。運転席へ乗り込み、
「ほんなら帰ろか」
と言って、エンジンをかける。
「あっ、ちょっと待って……」
(やっぱりお牛さんに一言言ってから……)
慌てて颯手を止めようと身を乗り出したら、わたしは手を滑らせて、足下にオルゴールを落としてしまった。
「あっ!ごめんなさい!」
「大丈夫だよ」
愛莉が身を屈めオルゴールを拾い上げる。すると箱の中から、ポロン、と音が鳴った。
「あれっ?」
首を傾げて愛莉が蓋を開けると、まるで元から壊れていなかったかのように、オルゴールが音楽を奏でだした。
(わたしが落としたはずみで直った……とか?)
音が鳴らなかったのは、シリンダーに何か引っかかっていたのだろうかと思い、
「そのオルゴール、もしかして直ったのかな?」
と言って愛莉を見ると、愛莉は真っ青な顔で唇を噛み、小刻みに震えていた。
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