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帰りの車中、わたしたちはほどんど喋らなかった。
わたしの隣で愛莉は泣き疲れてしまったのか、眠っている。
バックミラー越しに見える颯手の顔は、普段見たことのない険しい表情を浮かべていて、声を掛けるのは躊躇われた。
(颯手……どうしたの?)
わたしは膝の上の漆の箱を見つめた。この箱の中に、誰かの想いが閉じ込められていたのだろうか。そして愛莉は、その想いに影響され、泣き出してしまったのだろうか。
(神使が見えたり、人の想いに影響されたり……愛莉って、一体何……)
けれど、今は、それを颯手に聞くことは出来ない。
車はちょうど鴨川の上を走っている。わたしは窓越しに、鴨川の上流に視線を向けると、薄暗くなりつつある空を見上げた。
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