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ママは三人兄妹の末っ子で、上には兄と姉がいる。それぞれに一人息子がいて、私より14歳年上の従兄は神谷誉(かみやほまれ)といい、12歳年上の従兄は一宮颯手(いちみやはやて)といった。当時、伯父さん家族、伯母さん家族も近所に住んでいたので、誉と颯手は、仕事で多忙なママとパパにかわって、よくわたしの面倒を見てくれていた。
(颯手、わたしのこと、覚えているかしら)
特に颯手はわたしを可愛がってくれて、わたしは優しくて素敵な彼のことが大好きだった。イギリスへ旅立つ日は、離れるのが嫌で泣きじゃくったものだ。
(……あの約束も、覚えているかな)
大人になって帰って来たら、わたしを颯手の「恋人」にしてくれるという約束。
思えば小さな頃のわたしは、なんて大胆だったのだろうと恥ずかしくなる。
「あら?どうしたの、杏奈。赤い顔をして。飛行機の中が寒くて、風邪でもひいちゃった?」
ママが心配そうに顔を覗き込んで来たので、わたしは急いで、
「ううん!大丈夫」
と首を振った。
さりげなく頬に触れると、ママが勘違いしたのも分かるほど、熱を帯びている。この熱は、きっと、颯手のことを思い出したからだ。
(早く、颯手に会いたい)
ずっとずっと会いたかった。
胸を高鳴らせながら、わたしは、両親の後について空港バス乗り場に向かった。
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