2.北野天満宮のお牛さん

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「…………」  部屋の中に沈黙が落ちた。誰も言葉を発さない。  その沈黙に耐えられなくなって、わたしは口を開いた。 「わたし、オルゴールの持ち主が分かるかもしれない……」 「えっ?ほんまなん、杏奈」  颯手が目を丸くしてわたしを見る。 「持ち主っていうか、旦那さんなんだけど……正確には、わたしが知ってるわけじゃないんだけど」 「どういう意味だ?」  回りくどいわたしの言葉に、誉が怪訝な表情を浮かべる。 「今日、『天神市』で、お牛さんの神使に会ったの。お牛さんは、毎日お参りに来るおじいさんの為に、漆塗りで螺鈿の桜模様が入った箱を探してるって言ってた。おじいさんの亡くなった奥さんの大切なもので、形見だったのに、息子さんが勝手に古道具屋に売ってしまったんですって。きっとそれ、このオルゴールのことだと思う」 「漆塗りで螺鈿の桜模様か。まさにこの箱だな」  誉がオルゴールを持ち上げて眺めた。 「そのオルゴール、その人に返してあげられないかな?」  わたしは誉と颯手の方へ身を乗り出した。 「どこの誰とも分からないけど、何とかして、返してあげたい」  颯手は考え込むように顎に手を当てると、 「そのおじいさんは、毎日お牛さんにお参りに来はるんやね。それなら、お牛さんの前で待っていれば、会えるんとちゃうかな。行けば、どの人がそのおじいさんなのか、お牛さんがきっと教えてくれはるやろ」 と答えた。 「そうよね……!」  颯手の提案に嬉しくなり、わたしは両手を合わせた。 (大切なオルゴール、おじいさんに渡すことが出来る!お牛さんとの約束も、叶えられる!)
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