1106人が本棚に入れています
本棚に追加
「…………」
部屋の中に沈黙が落ちた。誰も言葉を発さない。
その沈黙に耐えられなくなって、わたしは口を開いた。
「わたし、オルゴールの持ち主が分かるかもしれない……」
「えっ?ほんまなん、杏奈」
颯手が目を丸くしてわたしを見る。
「持ち主っていうか、旦那さんなんだけど……正確には、わたしが知ってるわけじゃないんだけど」
「どういう意味だ?」
回りくどいわたしの言葉に、誉が怪訝な表情を浮かべる。
「今日、『天神市』で、お牛さんの神使に会ったの。お牛さんは、毎日お参りに来るおじいさんの為に、漆塗りで螺鈿の桜模様が入った箱を探してるって言ってた。おじいさんの亡くなった奥さんの大切なもので、形見だったのに、息子さんが勝手に古道具屋に売ってしまったんですって。きっとそれ、このオルゴールのことだと思う」
「漆塗りで螺鈿の桜模様か。まさにこの箱だな」
誉がオルゴールを持ち上げて眺めた。
「そのオルゴール、その人に返してあげられないかな?」
わたしは誉と颯手の方へ身を乗り出した。
「どこの誰とも分からないけど、何とかして、返してあげたい」
颯手は考え込むように顎に手を当てると、
「そのおじいさんは、毎日お牛さんにお参りに来はるんやね。それなら、お牛さんの前で待っていれば、会えるんとちゃうかな。行けば、どの人がそのおじいさんなのか、お牛さんがきっと教えてくれはるやろ」
と答えた。
「そうよね……!」
颯手の提案に嬉しくなり、わたしは両手を合わせた。
(大切なオルゴール、おじいさんに渡すことが出来る!お牛さんとの約束も、叶えられる!)
最初のコメントを投稿しよう!