1110人が本棚に入れています
本棚に追加
「これでお牛さんからのお願い事は解決やね。帰ろか」
わたしの頭に軽く触れた後、颯手は体ごと振り返り、
「愛莉さん、大丈夫?」
誉の側でつらそうにしている愛莉に近づいた。
「はい。大丈夫……です」
弱々しく笑う愛莉を守る様に、誉が肩を抱いて引き寄せる。
歩き出した3人を追いかけようとして、わたしはふと気配を感じ、後ろを振り向いた。牛舎の側に『一願成就のお牛さん』の化身が立っていて、こちらを見ている。
「約束通り、おぬしの願いを公に進言しておこうかの」
「ひとつだけじゃよ」と言って、皺くちゃの顔の中の唇のあたりに人差し指をあてたお牛さんに、
「それなら、わたし、絵馬の方じゃなく、お牛さんに直接頼んだ方を……」
わたしは急いで呼びかけたが、その時にはもうお牛さんの姿は消えていた。
「…………」
誰もいなくなった牛舎を見つめて立ち尽くしていると、
「杏奈!」
少し離れた場所から、颯手がわたしを呼ぶ声が聞こえた。わたしは、
「はーい!」
と返事をして、颯手の元へと駆けて行った。
最初のコメントを投稿しよう!