1084人が本棚に入れています
本棚に追加
/191ページ
約束の日、わたしたちは祇園の八坂神社の前で待ち合わせをしていた。
八坂神社は京都の数ある神社の中でも有名な一社なので、赤い楼門の前は写真を撮る観光客で賑わっていた。それを見るともなしに眺めていると、
「お待たせ!ごめんね、待たせちゃったかな?」
待ち合わせ時間の5分前に愛莉がやって来た。
「ううん。わたしもさっき来たばかりよ。それに、まだ時間前よ」
開口一番謝って来た愛莉に、首を振って見せる。
「ねえ、地主神社ってどこにあるの?」
愛莉に問いかけると、
「地主神社……というより、清水寺は五条だから、もう少し先なんだけど、八坂神社を抜けて歩いて行くと、二寧坂、産寧坂を通るから、風情があって楽しいかな、と思って、ここで待ち合わせにしたの」
との答えが返ってくる。
「なら、この中を通るの?」
八坂神社の楼門を見上げると、愛莉は「うん」と頷いた。
「それじゃあ、行こうか」
ふたり並んで仲良く階段を上る。
「八坂神社は、京都の夏の風物詩『祇園祭』で有名だよね。もともと、疫病を鎮めるために始まったお祭り……だったかな?」
屋台の出ている参道を歩きながら、愛莉が知識を引っ張り出すように言った。
「小さい頃、颯手がよく連れて行ってくれたわ。大きな山鉾が、豪華で綺麗だったことを覚えてる」
京都は7月の1ヶ月間、『祇園祭』一色になる。ハイライトは、八坂神社の神輿渡御と、山鉾巡行。山鉾巡行では「動く美術館」とも言われる絢爛豪華な山鉾が、四条通、河原町通、御池通を回る。
「私も今年の夏は、誉さんと見に行ったんだよ」
「ふぅん、そうなんだ」
「誉さんの浴衣姿、格好良かったなぁ……」
その時のことを思い出したのか、愛莉がうっとりとした表情で両手を組んだ。
(愛莉の目を通すと、おっさんの誉も、格好良く見えるんだ……)
自分のことを棚に上げて、恋する乙女は盲目だ、とわたしは思った。
最初のコメントを投稿しよう!