3.地主神社の恋占いの石

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 約束の日、わたしたちは祇園の八坂(やさか)神社の前で待ち合わせをしていた。  八坂神社は京都の数ある神社の中でも有名な一社なので、赤い楼門の前は写真を撮る観光客で賑わっていた。それを見るともなしに眺めていると、 「お待たせ!ごめんね、待たせちゃったかな?」 待ち合わせ時間の5分前に愛莉がやって来た。 「ううん。わたしもさっき来たばかりよ。それに、まだ時間前よ」  開口一番謝って来た愛莉に、首を振って見せる。 「ねえ、地主神社ってどこにあるの?」  愛莉に問いかけると、 「地主神社……というより、清水寺(きよみずでら)は五条だから、もう少し先なんだけど、八坂神社を抜けて歩いて行くと、二寧坂(にねんざか)産寧坂(さんねんざか)を通るから、風情があって楽しいかな、と思って、ここで待ち合わせにしたの」 との答えが返ってくる。  「なら、この中を通るの?」  八坂神社の楼門を見上げると、愛莉は「うん」と頷いた。 「それじゃあ、行こうか」  ふたり並んで仲良く階段を上る。 「八坂神社は、京都の夏の風物詩『祇園祭』で有名だよね。もともと、疫病を鎮めるために始まったお祭り……だったかな?」  屋台の出ている参道を歩きながら、愛莉が知識を引っ張り出すように言った。 「小さい頃、颯手がよく連れて行ってくれたわ。大きな山鉾が、豪華で綺麗だったことを覚えてる」  京都は7月の1ヶ月間、『祇園祭』一色になる。ハイライトは、八坂神社の神輿渡御と、山鉾巡行。山鉾巡行では「動く美術館」とも言われる絢爛豪華な山鉾が、四条通、河原町通、御池通を回る。 「私も今年の夏は、誉さんと見に行ったんだよ」 「ふぅん、そうなんだ」 「誉さんの浴衣姿、格好良かったなぁ……」  その時のことを思い出したのか、愛莉がうっとりとした表情で両手を組んだ。 (愛莉の目を通すと、おっさんの誉も、格好良く見えるんだ……)  自分のことを棚に上げて、恋する乙女は盲目だ、とわたしは思った。
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