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実穂は、もう一度、わたしに顔を近づけると、
「なっちゃん以外は誰にも言っていないの。杏奈ちゃんがふたり目。横田君、モテるから、彼女が出来たって分かったらきっと噂になるから、なるべく内緒にしておくことに決めたんだ」
と、ひそひそ声で説明した。「なっちゃん」というのは実穂の幼馴染の佐伯夏巳のことで、彼女は3年B組に在籍している。幼稚園からの知り合いだという夏巳とは親友の間柄らしく、実穂と夏巳とわたしの3人で何度か下校したことがある。
「なるほど……」
慎重な実穂の言葉を聞いて、わたしは「確かにあちこちで噂になると、いろいろと面倒だろう」と思った。
「だから、杏奈ちゃんも内緒にしててね?」
実穂に念を押され、「分かったわ」と頷く。
「じゃあ、今日は、横田君と一緒に帰るの?」
「うん、そう。だから、ごめんね。杏奈ちゃん」
「ううん、大丈夫よ。良かったね、実穂!」
実穂の体をぎゅっと抱いて囁くと、実穂もわたしの体をぎゅっと抱き返し、
「ありがとう、杏奈ちゃん!」
と小声でお礼を言った。
「ばいばい!」
明るく手を振り、教室を出て行った実穂を見て、
(いいなぁ……「彼女」かぁ)
わたしは羨ましさで溜息をついた。
(わたしも「颯手の彼女です」って言ってみたい)
内心でつぶやいた後、
(でも、『恋占いの石』効果抜群じゃない!?わたしの恋も、期待が持てる!)
「今日も颯手のところに行こうっと!」
わたしはポジティブに考えると、足取りも軽く教室を出た。
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