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実穂から彼氏が出来たことをカミングアウトされてから、数日が経った。
毎日とても幸せそうで楽しそうだった実穂が、最近はなぜか元気がない。
「実穂、最近元気ないわね。何かあったの?」
授業の合間の休憩時間、教室を出た実穂を追いかけ、わたしは廊下で話しかけた。実穂は、暗い表情でわたしを見返し、
「……ねえ、杏奈ちゃん。もしかして、私と横田君が付き合ってるって話、誰かにした?」
唐突にそう問いかけた。
「えっ?誰にも言っていないけど」
なぜ疑われているのか分からず、吃驚したまま首を振ると、実穂は、わたしの言葉が本当なのかどうか探るような瞳をした後、
「……私が横田君と付き合ってるってこと、噂になってるみたいなの」
と言って、ブレザーのポケットの中から、折りたたまれたノートの切れ端を取り出した。
「授業中に回って来た。でも誰からなのか分からない」
ノートには「調子にのんな。ブス」と殴り書きがされている。
「うそ、何これ!わたし、これを回したのが誰なのか、聞いてくる!」
即座に身を翻そうとしたわたしの腕を、
「待って!」
実穂が掴んで引き留めた。
「やめて!これ以上、目を付けられたくない」
「……横田君は、何て言ってるの?」
「黙っていれば、そのうち皆飽きて、噂しなくなるよ……って」
「それまで、悪口を言われるがままになるっていうの?」
つらそうに唇を噛んでいる実穂を見て、わたしは横田君に怒りを覚えた。
(彼氏なら、もっと積極的に彼女を守ったらどう!?)
とはいえ、悪いのは彼ではなく、陰口を叩いている「誰か」だ。
わたしは気を取り直し、
「他に何か困ってることない?何かあるなら、力になるわよ」
肩に手を置くと、実穂は、
「ありがとう、杏奈ちゃん」
と弱々しく微笑んだ。
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