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実穂の家から一筋離れた道に入ると、電柱の陰にうずくまっている女の子がいた。夏巳だ。
「佐伯さん!」
名前を呼び、駆けつける。
わたしの呼びかけに振り返らない夏巳の側に近づき、しゃがんで、彼女の顔を覗き込んだ。
「はぁ……はぁ……」
「……!」
荒い息で胸を押さえている夏巳の手元を見て、息を飲む。
「それ……藁人形!?」
夏巳が胸に抱えているのは、藁で作られた人形だった。よく見ると、何本も釘が刺さっている。
「やっぱり、佐伯さんが実穂に呪いをかけていたの!?」
「…………」
答えない夏巳をわたしは睨みつけたが、今は糾弾するより、夏巳に返った呪いを打ち消すことの方が先決だ。
(返った呪いを消す方法は聞いてこなかった。うまくいくといいけど……)
夏巳から藁人形を奪い取り、釘を全部引き抜くと、彼女の胸元に手を当て、
「『六根清浄 急々如律令』」
と唱えた。すると、苦しそうだった夏巳の表情が和らいでいく。
(うまくいった……?)
ホッとして肩の力を抜き、わたしはあらためて手にした藁人形を見た。何度も釘を刺したのか、無数の穴が開いている。
「どうして、実穂を呪ったりしたの?」
ともすれば怒気を含んでしまいそうになる声を、出来るだけ抑えて問いかけると、
「……実穂が、横田君と付き合い始めたから悔しくて…………」
夏巳は弱々しい声で答えた。
「私もずっと好きだったのに……」
「だからって、人を呪う理由にはならない」
ぴしゃりと叱ると、夏巳はぐっと唇を噛んだ。
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