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「『呪い屋』……ね」
実穂のお見舞いから帰った足で『Cafe Path』を訪れたわたしは、颯手と、ちょうどコーヒーを飲みに来ていた誉に、今日の出来事を話して聞かせていた。
『呪い屋』のことを聞いた誉が、顎に手を当て、考え込んでいる。
「誉、何か知ってるん?」
「前にSNSで噂になっていたことがある。『呪いたい人がいれば、金を払えばその方法を教えてくれるらしい』……とか、なんとか」
「そんなことをしている人がいるんですか?」
わたしたちの話を聞いていた愛莉が、ショックを受けた顔をした。
「陰陽師の仕業やろか?歴史のある京都や。僕らの他にいてもおかしくないで」
「そうかもしれないな」
颯手の言葉に、誉が頷く。けれど、
「この話は忘れろ。深追いしない方がいい」
わたしと颯手、愛莉の顔を順番に見ると、そう告げた。
「でもっ!悪いことをしている人を見逃すの!?」
わたしが食って掛かると、
「触らぬ神に祟りなし、だ。友達が巻き込まれて悔しいかもしれないが、忘れろ、杏奈」
誉は念を押した。
「……っ」
「とりあえず、杏奈、お疲れさん」
悔しい気持ちで手を握り締めているわたしの頭を、宥める様に颯手が撫でる。
「実穂ちゃん、早く学校に来はるといいね」
(それは、どうかな……)
「学校が怖い」と言っていた実穂を思い出して、わたしは胸がぎゅっと痛くなった。呪いを返して体が元に戻っても、心は元に戻るだろうか。
黙り込んでしまったわたしを見て、誉が立ち上がった。
「杏奈、疲れただろ。送って行くから、もう帰れ。そして、寝ちまえ」
疲れた状態であれこれ考えても、気分が落ち込むだけだとでも言うように、誉が肩を叩く。わたしは頷いて立ち上がった。
「それじゃあ、颯手、愛莉、また明日」
ばいばい、と手を振ったわたしに、颯手と愛莉も手を振り返してくれる。
わたしは『Cafe Path』を出ると、誉と並んで歩き出した。
◇
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