4.伏見稲荷大社の霊狐

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4.伏見稲荷大社の霊狐

 12月に入り、外ではちらちらと早めの初雪が降っている。  晩ご飯を終えた後、ダイニングテーブルで勉強をしているわたしの横で、ママがノートパソコンと睨めっこをしていた。 「ああ、全然売れてない……。あのバッグ、絶対可愛いと思って仕入れたのに。クリスマスプレゼントを提案するメルマガを、もう一度配信してみようかしら……」  ママは日本に帰って来てから、ファッション雑貨を販売するネットショップを立ち上げ、自宅で仕事をしている。今の様子を見ていると、どうやらうまくいっていないようだ。 「ママ、センスいいのにね」 「そうなのよ!何で売れないのかしら」  自分のファッションセンスに自信を持っているママは、前のめりになり、憤慨したようにテーブルを叩いた。  わたしは苦笑すると、 「紅茶でも飲む?」 と提案してみる。ママは椅子の背もたれに体を戻すと、目頭を押さえて、 「飲むわ」 と言った。ずっとパソコン画面を見ていたので、目が疲れたのかもしれない。
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