4.伏見稲荷大社の霊狐

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 わたしはシャープペンシルをテーブルの上に置くと、立ち上がった。キッチンに入り、戸棚の中から、アッサムの茶葉を取り出す。  お湯を沸かして、ポットとティーカップを温めると、丁寧に紅茶を淹れていく。ママがこのあいだ、輸入食品店で買って来たショートブレッドもお皿に盛った。 「はい、どうぞ」  テーブルに置くと、ママは、 「ありがとう」 と言って、カップに口を付ける。 「うん、美味しいわ」 「良かった」  自分の分の紅茶を飲みながら、わたしは何気なくママのノートパソコンに目を向けた。 (パソコンでもSNSって出来るのよね?実穂にメールも送りたいし、ママ、貸してくれないかな)  夏巳に呪われるという事件があってから、実穂はずっと学校を休んでいる。わたしは実穂の気持ちを考えて、原因不明の病気は夏巳の呪いのせいだった(そして、後で彼女を問い詰めて分かったことだが、実穂が横田君と付き合っているという秘密をばらしたのも夏巳だった)ということを、彼女には話していなかった。  夏巳も自分から告白して謝罪する勇気がなかったのか、うやむやの状態にしているようだ。けれど、罪悪感があるのか、実穂を避けているようで、そんな夏巳の様子から、実穂も何かを察して、彼女と距離を置いているようだった。 (親友だと思っていた子に裏切られたなんて、実穂はきっと傷ついているわよね)  SNSもしたいが、実穂も心配だ。私は思い切って、 「ねえ、ママ。使っていない時でいいから、パソコン貸して貰えないかしら」 とお願いをしてみた。するとママは目を瞬いて、 「何に使うの?」 と聞いて来た。 (SNSがしたいっていうのは、言わないほうがいいかな?) 「ええと……学校に来れてない実穂にメール送ったり、後は調べものしたりしたくって」  少しニュアンスを変えて答えると、 「実穂ちゃんのことは心配ね。杏奈がメールを送って元気づけたいって気持ち、分かるわ」 ママは考え込むような顔をした後、 「そういえば、もうすぐ杏奈の誕生日よね。今年の誕生日プレゼントはスマホにしようかしら?」 と言った。予想外の答えが返って来て、わたしは目を丸くして、 「いいの?」 とママの方へ身を乗り出した。 「杏奈も来年は高校生だしね。そろそろ、スマホを持っていないのも不便でしょうし」  「わあ!ありがとう!」  両手を合わせて喜んでいるわたしに、ママは、 「近々、買いに行きましょう」 と言ってくれる。
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