4.伏見稲荷大社の霊狐

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 結構あっさりと目的を叶えてしまったので、「この後はどうするんだろう、このまますぐ帰るのだったら寂しいな」と思っていると、 「杏奈。せっかく来たし、稲荷山を登って行かへん?」 颯手が提案をしてくれた。 「登れるの?」 「登れるで。頂上まで行くとしんどいから、『四ツ辻』ていう、途中の見晴らしのいいところまで行ってみいひん?」 「うん!」 (颯手と一緒に居られるなら、どこでも行くわ!)  わたしは嬉しい気持ちで頷くと、颯手と連れ立って、稲荷山に向かって歩き出した。  稲荷山の入り口は奥宮の奥にあるとのことで、行ってみると、スタート地点を示すかのように朱色の鳥居が連なっている。 「わあ……鳥居がいっぱい!」 「お山の上まで、ずーっと続いてるで」 「ねえ、颯手。このお山って……蛇が出たりしない?」  ふとわたしは不安になり、颯手に尋ねてみた。実は子供の頃、庭でロープと間違えて蛇を握ってしまったことがあり、幸い噛まれはしなかったものの、それ以来、わたしは蛇が大の苦手になったのだ。 「どうやろうなぁ。いるかもしれへんけど、登山道は人も多いし、大丈夫とちゃうかな。でも杏奈が心配なんやったら、おまじない、しとく?」  颯手の提案に、 「おまじない?どんな?」 と問い返すと、 「蛇除けの呪歌や。――『東山つぼみがはらのさわらびの思いを知らぬかわすれたか』」 颯手はさらさらと3度歌を唱えた。 「これでばっちりや。さあ、行こか」  わたしを促すと、鳥居の中に入って行く。
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