恋の天使

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恋の天使

恋の天使 「君、何か悩んでいることはないかい?」 お昼前、大学の食堂のいつもの席に腰掛けてぼーっとしていると不意に、僕の平穏を乱す声がした。 声の主に見覚えはない。細身の体に明るい髪。派手めのファッションに身を包んだ僕とはおよそ真逆の人物だった。 「本当に何もない?例えばそうだな、気になる子と仲良くなりたいな、とかは?」 前言を撤回しよう。僕はただぼーっとしていたのではない。いつもの席に腰掛け、ある人物の方をしきりに気にしていたのだ。 「やっぱりね。君を見てるとやきもきしちゃって。君さえよければ協力させて欲しいんだけど、どうかな?」 なんでも彼は恋のキューピッドなのだという。 毎日同じように彼女を眺めてはため息をついて何もせず去っていく僕に同情心が湧いたらしい。 正直、自分のことをキューピッドなどとのたまう男と近づきたくはなかったが恋愛の橋渡しをしてくれるという話だ。 僕は藁にもすがる思いで自称恋の天使に教えを請うことにした。 「己を知り敵を知らば百戦危うからず、って言うだろう?一緒に作戦を立てよう。まずは彼女について知っていることを教えてくれないかい?」 言われるがままに僕は僕の知りうる限りのことを話した。話したつもりだったのだが、大した内容は出てこなかった。 それどころか、彼女との隔たりの大きさを浮き彫りにされたような気がしてすっかり打ちのめされてしまった。 「そんなに暗い顔しないで。知らないってことはこれから仲良くなる余地がいくらでもあるってことなんだから。そうだな、あの子の友達とかは見かけたことはあるかい?」 天使は聞き上手で、出涸らしたはずの僕から苦もなく情報を引き出していく。 「今日はここまでにしようか。じゃあまた明日。今度は君のことをたくさん教えてくれよ?」 翌日、少しそわそわしながらいつもの席に着いた。 昨日はあの天使に大いに助けてもらったのだ。自分のことくらいちゃんと話せるよう少なからず準備をしてきたのだった。 ところが、いくら待ってもキューピッドは現れなかった。 いつもなら決まった席に現れるはずの彼女もこの日に限って現れなかった。 しばらくして、大学の構内で彼女とすれ違った。 彼女の隣には髪も黒く、服装も大きく変わって落ち着いた悪魔がいた。
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