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別離
幼なじみで恋人の誠一は、単身赴任していた東京で事業上の失敗から多額の借金を負った父親を助けるため、地元の大学を中退して上京することになった。
わたしの19歳の誕生日。
海の入り口にかかる小さな橋の上で、わたしたちは最後の時間を惜しんだ。幾度となく逢瀬を重ねた、ふたりの大切な場所で。
彼の乗る夜行列車が来るまでの時間は、飛ぶように過ぎてゆく。
「借金は10年で完済するって父さんも言ってる。それを目標にして、俺も死にものぐるいで働くから」
「10年……」
それは若者を絶望させるのに充分な年月だった。
「そんで、月子の29歳の誕生日に帰ってくる。結婚して、子ども作って、一緒にこの町を盛り上げて暮らそう」
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