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「よそ見もしないで10年も待ってろって言うの?」
わたしは精いっぱい意地悪な微笑みを浮かべた。そうでもしないと泣いてしまいそうだった。
「……恋愛くらい、したっていいさ。嫉妬で気が狂いそうだけど」
「二十歳の約束はどうなるの?」
未成年のうちは、月子に手を出さない。
それは、ばかまじめでストイックな誠一がわたしとわたしの両親に誓っていた約束事だった。
この橋の上で落ち合い、周囲を憚りながらそっと口づけを交わすだけの、清らかな関係のままだったのだ。
「――それは」
誠一の声は、苦しげにかすれた。
「月子に、任せるよ」
こらえていた涙があふれだした。
潮のにおいのしみついた厚い胸に、わたしの涙がいくつもいくつもしみこんでいった。
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