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10年間。
一度も帰ってこない、連絡もほとんどよこさない恋人を待つうちに、彼の存在はわたしの中で神格化されていった。
大学卒業後は地元の小さな商工所に勤めた。
海に囲まれた小さな町から、わたしはほとんど出ることなく暮らした。
誠一が、海風の吹くこの町を誰よりも愛していることを知っていた。
新年の挨拶と、わたしの誕生日祝い。
それだけ、本当にそれだけだった。誠一が電話をよこしたのは。
それ以外は「生きてます。そちらも変わりないですか」というテンプレートのようなメールが時折ぽつぽつと届くだけだった。
帰省なんて、ただの一度もしなかった。
だから、わたしも歯を食いしばって堪えた。
自分の欲望だけで逢いにいったりみだりに連絡してはならないと、己を強く律した。
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