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「そんな……」
「その条件を飲まなければ、親父は命さえ危なかったんだ。ほんとに、ほんとにごめん、月子」
実家で待たされている婚約者とおそろいのプラチナリングのはめられた左手が、わたしの背中をきつく抱いている。その指先がかすかに震えている。
誠一、気づいてる? わたしが10年前のあの日と同じワンピースを着ていることを。
髪型も体型も、まったく変えずにキープしてきたことを。
わたし自身がタイムカプセルになって、時を止めて待っていたことを――。
「でも、1秒だって月子のことを忘れたことはなかった」
初夏の海風が、あの日と同じようにわたしたちの頬をなぶってゆく。
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