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足音を忍ばせて
僕はその足で九条さんの部屋へ向かった。
まさに今——期待と苦悩の中にいるだろう僕の美しい人。
まさか征司の方から僕と一緒に出て行けと言われるとは思ってもいなかっただろうし。
だけど征司に突き放された僕がどうなるかも
今までの経験上分かっているはずだ。
だから彼は決して無理強いはしないはず――。
でもさすがにこのまま気のないふりはできない。
『身体を許すな——最も効果的なやり方だ。ギリギリまで媚びて甘えていい気持ちにさせてやれ。それでも最後切り札は渡すなよ』
椎名さんの言葉が頭の中でリフレインする。
駆け引きは得意なはずだろ?
だったらどうして?
彼が相手だといまだに
どうしてこんなにドキドキするんだ——。
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