38人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
彼に嘘は得策ではない。
だから
「待って――」
もう一度近づく唇を指先で抑えると
僕は真実を告げることにした。
「今回は……今回ばかりは征司お兄様のためではなくこの家にいたいんだ」
「え?」
「わけはまだ話したくない」
九条さんは無垢な目を丸くしたのも束の間。
すぐに複雑な表情を作った。
「その説明で僕に納得しろと?」
「ええ……だってあなたを愛してる。それは本当」
切り札は大事に取っておく。
だけど甘えて媚びて喜ばせるのは椎名さんもいいって言った。
「悪い子の僕が嫌いになった?」
僕は彼の首に両手を回して耳元に甘く囁いた。
「それともあなたのモノだって証拠が欲しい?」
触れ合う頬がかぁっと熱を持つのが分かる。
その距離で
「するべきことがすんだら、あなたの要求のまま言うこと聞くから——ね」
再び囁いて今度はこちらから瞳を覗き込むんだ。
「だからお願い――少し待って」
最初のコメントを投稿しよう!