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突き放されると途端に怖くなる。
「この期に及んで何か言い訳するつもりか?」
「だからそれは誤解で……」
「誤解?」
「九条さんの部屋で僕は……」
ああそうだ。
すべては間違いだったと。
僕はあなたの部屋へ行こうとした。
でも彼が引き留めたんだ――。
あなたがいつもそうするみたいに強引に。
だから仕方なかったのだと。
ズルい頭で咄嗟の言い訳捻くり回していたその時だ。
するすると手摺に白い手を滑らせながら
薫が螺旋階段を下りてきた。
途中で僕らの存在に気づいてあからさまイヤな顔をする。
分かるよ。
誰にとってもこれはバッドタイミングだった。
薫は氷より冷ややかな眼差しで僕らを交互に見やる。
それでも根っから律儀ところがあった。
「征司兄——」
言いにくそうに眼を逸らしたまま
薫は咳払いして口を開く。
「分かってるだろうが、こいつ——昨夜うるさいくらいにないてたぞ」
「薫お兄様っ……」
確かに
そう言ってくれとは――頼んだけれど。
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