episode259 復讐の計画①

22/30

38人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
デパートの外商を従え 平然と僕の前を横切る黒いハイヒール。 「そんなこと仰らず。お似合いでございますよ。こちら黒い薔薇がモチーフの新作でして、この世にたった一足のオートクチュールでございますから」 黒い薔薇の飾りがついた極端にヒールが高くて細い靴。 「まあサイズはピッタリね」 「もちろんです。お嬢様の為だけに御用意させて頂いておりますので」 廊下の中頃でくるりと踵を返すと 再び——今度は僕の目を見据えて戻ってきた。 「でもねえ、やっぱり使わないかも」 貴恵は僕が掴んでいる階段の手摺——。 手が触れ合うすれすれの場所を掴んで片方ヒールを脱いで見せた。 「誰かと揉めたら目を突き刺すにはちょうどいいかもね」 外商が目を丸くする前で 僕を見つめたまま少女のように無邪気な笑い声をあげる。 「冗談よ。笑いなさいな」 冷たいヒールの先が僕の頬をゆっくりと撫で下ろした。 「ハハハハハ!」 僕は笑った。 言われるがまま満面の笑みを浮かべて。 細い踵が頬に食い込むほど。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加