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「それにさ、ただの事情聴取なら別に屋敷でなくても、どこででもできるでしょう?」
躊躇いなく上目遣いで太腿に手を置いた。
ウェットジェルでセットした髪が
艶めかしく男を誘う。
「……どこかへ行きたいの?」
尖った唇が迷いを孕んで言った。
「うん。行先は——任せるけど」
鍛えられた身体にお堅いスーツは窮屈そうだ。
長い指が溜め息交じり乱雑にネクタイを緩めた。
「困ったな。君みたいな子を連れて行く場所を俺は知らないよ」
現役刑事が爪を噛む。
「僕みたいな子って?」
「だから——筋金入りの名家の坊ちゃんを連れてゆくような場所をさ」
しかしそうも言ってられなくなった。
屋敷の中門が開き車のサーチライトが見えたのだ。
「アクセルを踏んで!」
「え?」
「早く!」
屋敷から誰かが出てくる。
寸でのところで——僕を乗せた車は急発進した。
「大丈夫か!おい!」
シートベルトをしていなかった僕の身体は助手席の下まで転がって。
ようやく這い出しながら言った。
「行先は——あの世じゃなきゃどこでもいいよ」
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