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「ねえ、刑事っていつもこんなところで夜を過ごすの?」
作業着や着崩れたスーツを着た男たちの喧噪。
埃をかぶった古いテレビではボクシングの試合が流れている。
「あら、今日はずいぶんべっぴんさんを連れて来たんだね」
白いかっぽう着を着た中年女性が笑いながら
曇ったグラスにビールが注いで忙しなく去ってゆく。
「ここ、なんてゆう場所?」
「大衆酒場。だから言ったろ?君みたいなの連れてくような場所俺は知らないって」
恥ずかしそうに冴木は俯いて
ほんのちょっとグラスを上げるとビールを一口で飲み干した。
「ふうん。でも面白いよ――こんなとこ初めてだもの」
僕が辺りをキョロキョロしてる間に
先刻の中年女性が見かけない料理の小鉢を僕らの前に乱雑に置いて行く。
「知ってるよ。これはピクルスだね」
「ぬか漬け」
「そしてこれは——新種のソーセージ?」
「ホルモン焼き」
「なるほど、でこっちは——」
「切り干し大根とひじきの煮物とほっけの干物だ」
「ほっけ……うわっ!」
言ってる間にドンと後ろから酔っ払いがぶつかってきて。
「ああ、すまねえな、姉ちゃん!」
もともとガタガタしたカウンターごと揺らぐ。
「おい!気をつけろ!」
咄嗟に僕を庇って冴木が男をねめつけた。
「なんだ?イイ女の連れてるからってカッコつけやがって!」
酒臭い男は鼻息も荒く拳を振り上げる真似をする。
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