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「大丈夫——大丈夫ですから。さあさ、お席にお戻りになって。私これからほっけとやらいうムニエルをいただくところですの」
完全に女と間違われているのはもう構わない。
しかしこんなところでゴタゴタに巻き込まれている場合じゃない。
僕はそそくさと酔っ払いを追っ払うと
「ほっけの干物だ」
「いいの。そんなのどっちだって」
箸を持ったまま唖然としているハンサムな刑事に向き直った。
「それにしてもねえ——刑事さん」
「冴木でいい」
「じゃあ冴木さん。あなたキャリア組の刑事なわけでしょ?少なくともここまで庶民派な生活を送っていて——よく貴恵お姉様に巡り合いましたね?」
まさかあの女王様がここの小鉢をつつきながら、曇ったグラスでビールを飲んでいたとは思えない。
「教えて下さらない?あなたとお姉様がどこでどう繋がったのか」
冴木は自分で瓶からビールを注ぎながら
子供みたいに唇を尖らせて言った。
「簡単だよ——俺はドロップアウトしてたのさ。父親含め一族はたしかにキャリア組の人間でおたくの家との接点もあった。だけど俺は交番勤めもまともにできないようないわば一族のおちこぼれだったわけさ」
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