38人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
向かうべき場所は決めていた。
標的AでもBでもCのところでもない。
「なんだよ?何しに来た?」
僕の訪問を少しも待っていない次兄の部屋だ。
「僕に関わるのはもううんざりだってことは分かっています。でも聞いて——僕に鈴蘭を食べさせたのは貴恵お姉様だ」
無理矢理部屋に押しかけ扉を閉めてしまうと
僕は声を潜めて告白した。
「だったらどうしてさっきそう言わなかった?」
薫は匙を投げたようなジェスチャーで僕に背を向ける。
今さっきシャワーから出たとこらしい。
生乾きの巻き毛がいい具合いにアンニュイだ。
「家庭内の問題で終わらせないためですよ」
手にしたタオルを奪うようにして
僕は柔らかい髪を拭いて差し上げる。
「ちょ……やめ……」
最初こそ抵抗を示したものの。
「いいから座って——このまま聞いて」
知ってるんだ——。
この人は愛情不足で育った分
こういう行為を拒絶できない。
最初のコメントを投稿しよう!