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ナルシズム讃歌
「夜の闇が、かすかにぼやけて、朝が来るときを示す。鳥たちが鳴き始め、そのさえずりで朝を呼ぶ。僕は目覚めてコーヒーを淹れる……」
言いながらコーヒー片手に、男は鳥籠をつついた。すると、なかのオウムが鳴いた。
「サッサとしろよテメーもたくさすんじゃねえよ!」
嫁の口癖だった。
男はオウムに言った。
「ノンノンノン、ベイビー。そんなんじゃ朝は来ない。」
そう、内弁慶と知らずに結婚してしまった日から、男の朝は憂うつとの戦いで始まる。
だが、結婚は悔やまない。
嫁のことも、変えようとはしない。
「僕はいま、人生の波の上に漂う1隻のボート……」
これまでの半生において、さんざんばかにされてきた男のナルシズムが、いま、男の心を支え、救っていた。
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