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男が出ていった部屋
「窓に夕陽が射し込む部屋は……」
女は座ったまま口ずさみ始めた。
何度、この部屋を掃除してきただろう。
何度、床を拭いたことだろう。
何度、文句を言ったことだろう。
今も掃除はする。
女の一人暮らしでは、床はそんなに汚れない。
そして文句を言う相手はもう…………。
女はその小部屋でまた泣いた。
なぜだろう。思い出はたくさんあるのに、トイレほど彼を思い出す場所はなかった。
もう汚す者のない床に、またひとつ、涙が落ちた。
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