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個の多様性
ある日、中崎は学校でよく見かける1人の女子について思った。
あいつ、どうしていつも1人なんだろう、と。
余計なお世話と知りつつ、中崎は昼休みの廊下でその女子に声を掛けた。
「なぁ、一緒にメシ食わねえ?」
女子は怪訝そうな顔で、中崎を見た。
「あ、俺、中崎和也。とってる講義が同じの多いみたいで、君のこと、よく見かけるんだよね。で、いっつも1人みたいだから……」
中崎の言葉は、女子の苦笑いによって消された。
「1人なのは、勉強についていくため。ギリで入学したから、遊びとかおしゃべりに付き合う余裕ないんだ、私」
それだけ言って、女子はきびすを返した。
「ああ」
去りかけた女子は、なにか気づいたように中崎をふり向いた。
「私の名前は、蓮見美津子。名乗りにお返しだけ、忘れてかまわないよ」
そしてサッサと行ってしまった。
取り残された中崎は、思わず言った。
「くぅ~、カッコいいッ! お姉さまぁ~ん!!」
離れて様子を見ていた高校時代の同級生が、そばに来て言った。
「人前でクネるな。そんなだから、友達できねえんだ、おめーは」
「だってぇ~、ステキなお姉様だったんだものォ~。」
かまわれて、かわいくスネる中崎であった。
1人でいる事情は、人それぞれだよな。すぐそばの講義室で昼食中の誰もがそう思った。点在しながら。
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