個の多様性

1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ

個の多様性

 ある日、中崎は学校でよく見かける1人の女子について思った。  あいつ、どうしていつも1人なんだろう、と。  余計なお世話と知りつつ、中崎は昼休みの廊下でその女子に声を掛けた。 「なぁ、一緒にメシ食わねえ?」  女子は怪訝そうな顔で、中崎を見た。 「あ、俺、中崎和也。とってる講義が同じの多いみたいで、君のこと、よく見かけるんだよね。で、いっつも1人みたいだから……」  中崎の言葉は、女子の苦笑いによって消された。 「1人なのは、勉強についていくため。ギリで入学したから、遊びとかおしゃべりに付き合う余裕ないんだ、私」  それだけ言って、女子はきびすを返した。 「ああ」  去りかけた女子は、なにか気づいたように中崎をふり向いた。 「私の名前は、蓮見美津子。名乗りにお返しだけ、忘れてかまわないよ」  そしてサッサと行ってしまった。  取り残された中崎は、思わず言った。 「くぅ~、カッコいいッ! お姉さまぁ~ん!!」  離れて様子を見ていた高校時代の同級生が、そばに来て言った。 「人前でクネるな。そんなだから、友達できねえんだ、おめーは」 「だってぇ~、ステキなお姉様だったんだものォ~。」  かまわれて、かわいくスネる中崎であった。  1人でいる事情は、人それぞれだよな。すぐそばの講義室で昼食中の誰もがそう思った。点在しながら。  
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!