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あたしは目を丸くした。
知っている顔。
あたしが唯一覚えていた顔。
それはそう、行きつけの和菓子屋でよく見る顔だった。
玲央菜。
直ぐに分かった。
働いているときとは違い、長い黒髪が腰の横で靡く。
水を被ったせいか、濡れて纏まった髪の先から水滴が滴り落ちる。
制服のスカートや袖、襟など至るところが水を吸って悲惨な光景だった。
玲央菜はどこか怯えた表情を浮かべる。
「やめて」「嫌だ」
そう言いたげな雰囲気。
自然と怒りが込み上げてくる。
多分、他の子だった場合、あたしは見て見ぬふりをする。
関係ないし、面倒くさいから。
この嫌悪の感情は、多分、玲央菜だからだ。
明るい笑顔しか見たことがなかったが、今は違う。
震えて、怯えて、泣きそうな表情。
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