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「うちの和菓子、美味しいって言ってくれて……あ、ありがとう……」
嬉しかった。
今までの生きてきて、こんなに嬉しかったことがあっただろうか。
笑顔で接してくれた人間がいただろうか。
「別に」
「私も、作ってるんだ……」
彼女は驚いた表情を浮かべる。
普段は地味で虐められっ子が、何を言っているんだと、そんな表情。
「へぇ。そうなんだ」
本当に信じているのかは分からないが、疑っている様子は見られない。
私は胸に手をあてる。
一呼吸置いて落ち着いた。
こんな気持ちになるのは、初めて。
ドキドキする。
鼓動が高まっていくのが分かる。
言うなら。
言うなら、今しかない。
この機を逃したら、もう二度と来ない。
そんな気がした。
「あの、明日は……私がご馳走するから、その──」
緊張する。
生唾を飲み込んだ。
「一緒に帰ってくれたら、嬉しいです……」
精一杯の勇気を出して、私はそう口にした。
いつもみたいに声は小さいけれど、初めて心の籠った言葉を発した気がする。
顔が熱い。
多分、今頃頬は真っ赤に染まっている。
恥ずかしくて、彼女の顔を見ることが出来なかった。
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