玲央菜‐れおな‐

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私は少女に向かって手を伸ばす。 まるで、その手に惹かれるようにして。 遠くへ伸ばそうとすると、自然と体が前に出る。 一歩前へ踏み出すと、再び声が聞こえてきた。 『でもね、そのお願いと引き換えに──』 私はピタリと動きを止める。 差し伸べた手は下ろさず、そのまま固まる。 『わたし、話せないの。……だから、お姉さんの声をちょうだい』 声を、あげる? 想像もつかない。 私が誰とも話せなくなってしまうということだろうか。 もしも仮に、時間が巻き戻ったとする。 戻った世界では、私が二度と悠里ちゃんと話をすることはない。 そういうことだ。 『でもね、大丈夫。戻った世界で貴方は生まれたときから話せない。そういう世界』 私の存在を知っている者のみ、記憶が改竄される。 元々話すことが出来ない世界。 〝話すことが出来た〟という事実を知っているのは、私ただ一人。
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