玲央菜‐れおな‐

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目が合う。 いつも通り、何も考えていなさそうな顔。 そうか。 学校へ行く前は私の家に寄っていたのか。 しかし、この先の記憶なんかない。 だってこの世界では、ここまでが彼女の人生なのだから。 彼女は思い出したかのようにポケットから財布を取り出す。 いつも通りお釣りが出ないように小銭を並べて、私はみたらし団子を渡した。 「ありがとう」 初めて、お礼を言われた。 彼女は照れくさそうにして顔を背ける。 そして、足早に店を後にした。 私は外へ出て、いつも通り彼女を見送る。 頭を深く下げて「また来てね」と、心の中でそう強く願って。 〝ありがとう〟 その言葉に救われた。 彼女はただ単に、みたらし団子のお礼を述べただけかもしれない。 でも、私はそれだけじゃない。 〝あたしを助けてくれてありがとう〟 そんな意味が込められていた気がした。 気がしただけ。 そんな訳ないのに。 だってこの世界では、ただの客と定員なのだから。
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