追憶‐ついおく‐

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何を言ってんだ、あたしは。 頭を深々と下げ続ける店員を見て、そんなことを思った。 〝ありがとう〟なんて、ガラじゃないのに。 学校、行ってないのかな。 平日の昼間だというのに、あの子がいた。 とにもかくにも、みたらし団子が買えたから良しとしよう。 あたしは店に背を向けて、自宅へ歩き出した。 ──おかしい。 なにが? 分からない。 あたしは歩き出して直ぐに足を止める。 確かにおかしいのかもしれない。 謎の悪夢に(うな)されて昼間に起きた。 そして、いつもは出歩かない昼間に外へ出た。 自分でもよく分からない。 ただ、ここから先へ進むことが出来なかった。 そう。 ここから先の、時間へ。 帰れば、いつもみたいに今日が終わる。 でもそれじゃダメだ。 根拠はない。 確証もない。 あたしは道を戻っていた。 もう一度、あの和菓子屋を視界に捉える。 いつものあの子は、まだ外で頭を下げ続けていた。
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